豆腐

まだ夏じゃない

死闘

弊社が入居しているビルは各階に男女別トイレがあり、個室にはウォシュレットがついているし、わりと掃除もなされているので、ほどほどに快適であるのだけれど、問題はその個室で、大きい方、英語で言うところのUNKOをする便座がひとつしかないわけである。これは時に生きるか死ぬかの話になってくるわけで、たとえば朝に出社して、なんか腹痛え、ちょっとうんこするか、と思ってトイレに行ったはいいが、誰かに先を越されていて、このままでは人としての尊厳を喪ってしまう! という場面が多々ある。そうなると取るべき行動はふたつ。ひとつは先客の誰かが出てくるまで耐え忍ぶ。これは運に左右されるが、耐えられる程度の便意であれば、ただ待っているだけでいいから、楽ではある。だが往々にしてそういう時は、脳内でドラがジャーンジャーンと鳴り響き、ともすれば震えだしそうな状態であるわけで、そんな場合、弊社では下のフロアにあるトイレに向かうことになる。今回は弊社におけるトイレ事情を皆様にお伝えしようと思う。あなたが弊社を訪れ、とてつもない便意に襲われた場合に役立ててほしい。

まず弊社のあるフロアだが、これを使用できれば何もいうことはない。体内にチャージされた熱き濁流を最速で放出できるし、石鹸もペーパータオルもある。もし使えるのなら、このトイレを使うのがベストである。

だがもし使えないのであれば、下のフロアへと移動しなければならない。時間効率を考えると、階段を使うのがよい。数十秒で新たな戦いの場に辿り着くことができる。もしそこが空いているなら、石鹸やペーパータオルはないが、力の限り己の実力を出し切ることができる。ただし注意しなければならないのは、このフロアのウォシュレット、なぜか冷水しか出ない。どれだけ各種スイッチをいじっても、頑なに冷たい水しか出してこないのである。非常事態をやり過ごしたあとだと、かなりの確率でこの残酷な事実を忘れてしまうため、さて見事勝利をおさめ、あとは凱旋のシャワーのみ、という段になって襲いかかる冷水に、思わず「ヒッ!」とか「おふぅッ!」というエロマンガみたいな声を漏らしがちである。使用の際は、最後まで気を抜かないように留意してもらいたい。

もしこのフロアも埋まっていた場合は、さらに下のフロア、つまり弊社より2つ下まで降りることになる。ここもまた手洗い関係のあれこれが不足しているが、ウォシュレットはきちんと動作しているので、腹の中で暴れ狂う龍を飼い慣らしたという勝利の余韻にゆっくりひたることができる。と思っていたら大間違いで、たしかにこのウォシュレットはきちんと温水を出してはくれるが、なぜかノズルの位置が、左ケツ側に寄っている。そのため意図せぬ位置に着弾して「オゥッ……」とか「はぁっ……」というエロマンガみたいな吐息を漏らすことになる。その上きちんと返り血を洗い流すために、エロマンガみたいにケツをグラインドさせて着弾点を調整する屈辱を味わうことになる。最後まで気を抜かないよう留意してもらいたい。

まず考えられないことではあるが、もしもこのフロアのトイレも埋まっていた場合、さらに下のフロアへと向かおうとするかもしれないが、たぶんこの辺までくると、便意は最高潮に達していて、腹の中のダンスフロアは大盛況、うかつに動くこともできない。更には「ここまで来たけどその間に上のトイレ空いたんじゃね?」という疑念も湧き上がり、いよいよ身動きが取れなくなる。これまでの経験上、ここまで来て弊社フロアに戻ると、七割がたトイレは空いているのだが、怖いのは残り三割である。更に下を目指すか、それとも最後の力を振り絞り戻るべきか、どちらが最善なのか、それは弊社社員の間でも意見の別れるところであり、戻ったほうがいい、いや下のほうがリスクが低い、もうそうなったら諦めて漏らすなど、未だ明確な答えはない。もしあなたが同じ状況になったら、そのときはあなたの信じる道を選んでほしい。そこから先は半ば天運、半ば信心の世界である。己の進むべき道がどこに通じているのか。それはあなた自身で確かめて欲しい。