豆腐

まだ夏じゃない

2014/05/24 23:00

クラーク像やポプラ並木、あるいは日本三大がっかり名所として名高い時計台など冷凍都市殺幌にも一応名物らしいものはあって、厳しい入国審査を経て北海道に上陸し、狂った白痴市長が鼻くそほじりながら発行した許可証を手にした観光客たちは、そういった場所におしかけ、所詮は200万人都市よ、土人が暮らすつまらぬ土地だ、と鼻で笑いながらそういった名物名所を巡るわけだが、おれが彼らにおすすめしたいのはそういったものではなく、機械駆動4輪籠ことタクシーにぜひ乗っていただきたいと提案する次第で、ポロサツにおけるタクシーの運転マナーの悪さは市民にとって周知の事実であり、乗客の安全は二の次、急発進猛スピードこそが我ら殺幌タクシードライバーのモットー、快適な乗車は客に対して逆にスゴイ・シツレイ、と狂った信念を刷り込まれているとしか思えず、赤信号でも間に合えば突っ込むし、冬場などは凍結した路面で華麗なドリフトテクニックをしてくれるため、乗車時はリアルに命の危険を感じることもままあるわけで、退屈な日常に飽き飽きしているという方々には、ぜひ1月2月に来札してタクシーに乗車していただきたく、また車の運転には運転手の性格が現れるという話もあるように、殺幌タクシードライバーには接客サービスという概念が備わっておらんようで、諸手続きを終え殺幌に居を移してまもなくだったか、わたくしがタクシー乗車した際に行き先を伝えたところ、そんなんじゃ何言ってるかわからないよ! と怒鳴りつけられ、元来わたくしは滑舌が悪いからそのために行き先を聞き取れなかったのかもしれないという推論を加味した上でも、なにもそんなに怒ることねぇじゃねか、と思ったわたくしは「ああ、そうすかァ……」と半笑いで再度行き先を伝えると、その後一切の会話もなく無事に目的地へ到着したので、この街のタクシー、そしてタクシードライバーは、一般的な会話が困難な精神構造をしておられるのだな、と深く感銘を受け、また、別の機会に乗車したタクシーではドライバーが道をほとんど覚えておらず、通常であれば1000円程度で済むはずの道のりであったはずが、運賃カウンタが1500円を超えても到着せず、あげく「(運賃は)いつもどれくらいかかります?」と逆に問うてこれらて「まあだいたい1000円くらいですね」と答えると、停車時にきっちり1500円オーバーの運賃を徴収され、なるほどさっきのはただの世間話だったのか、どうやら常人と話すつもりでタクシードライバーと話していてはいつか命を取られるな、と殺幌という街の本質を垣間見たような気がして、わたくしはそのドライバーに深く感服し、この「殺幌で下手を打つと殺される」というある種の掟・悟り・教訓は、深夜の客待ちタクシー行列でタクシードライバー同士が客ほったらかしで怒号をあげてガチな喧嘩を繰り広げていたのを目撃したときにその正しさが改めて証明されたと確信した次第で、やらねばやられる、それがこの街の掟であると今ではわたくしも肝に銘じて生活しており、横断歩道を渡ろうと信号待ちをしていたわたくしが、歩行者信号が青になったのを確認し足を踏み出したその瞬間、一台のタクシーの運転手がヘラヘラ笑いながら信号を無視してわたくしの前をギュンと通り過ぎて停車したときなどは、殺される前に殺そう! と考える前に体が動き、目の前のドアを思い切り蹴(聞くに耐えない内容なので、スイスの美しい草原でも思い浮かべてお待ちください)したわけで、だからこそわたくしは殺幌に来たらタクシーに乗れ! と、ソープに行け! でお馴染みのあの先生のように強く提案する次第であります。