豆腐

まだ夏じゃない

16年前の最先端「オルタカルチャー日本版」

 

オルタカルチャー―日本版 (オルタブックス (000))
 

 引っ越しの際にもう読み返さないだろうとか、この先読める気がしないなあという本をポンポンと段ボールに放り込んでいたのだが、そのときに出てきたのがこの本というかムックである。どんな本かというと、俗に言うサブカル的なモノ・用語(冒頭でサブカルって言うな!オルタカルチャーって言え!的なことが書かれているけど、サブカルチャとしかいいようがない)について、それがどんなものなのかを解説している電話帳以上辞典未満のもので、当たり前だけれど16年前は今ほどインターネットが普及していなかったから、基本用語として「URL」や「電子メール」が挙げられていて趣深い。ちなみに「オルタカルチャー」でググると裁判の話が出てくるが、なにやら一悶着あったみたいだが、それについては触れない。

具体的にどんなことが書いてあるかというと、たとえば最初の項である「アイコラ」から抜粋すると「フォトショップやペイントショップ・プロなどの高性能な写真合成ソフトの出現によって可能になった新しい表現スタイル」「WEB URLは掲載できないが、GOOなどの検索エンジンで探せば、必ず見つかる」などと書かれていて、適当にググればいくらでも無修正動画が見つかる今からすると隔世の感がある。まずgooが検索エンジンの代表みたいに言われてるのがなんともよい。

パラパラとページをめくってみると「ネットスケープ」「サザエボン」といった、今や死に絶えてしまったものや、「裏原宿」「次世代機」「限定モノ」みたいに生きてるのか死んでるのかわからないような言葉、「コカイン」「ヘロイン」といった昔から変わらず大人気な薬物など実にさまざまなモノや事象、人物がある。

ちなみに「コミックマーケット」は7Pに渡って解説されており、ジャンルについて紹介している部分で挙げられているのは「やおい」「アニメ(男性向け)」「メカ・ミリタリー」等々って、人気作品としてセーラームーンとかウテナがあると言ってる部分はさすがに入れ替わってるが、まあいまと大して変わっておらんな、これ。最後のほうに書いてある「コミケットにはどんな本でもある。だが、求める人がそれと出会えるのは運次第なのだ」ってのがいいですね。

ちなみに「声優ブーム」という項もあって「本来裏方である声優にパーソナルなスポットが当たることによって生まれた(というか、最初からスポットが当たることを狙った)、異質な存在である」とあり、これは今でも引き継がれているところだよなあ。ちなみにその申し子として挙げられているのが、「デビュー当時、異例の若さでビッグプロジェクトに抜擢された」椎名へきるさんであるそうだ。「声優のCDのCMがガンガン打たれるような現況には、違和感が否めない」と筆者は語っている(ちなみに今更だが、この本は浅羽通明氏や鶴見斎、大塚ギチ鮫肌文殊といった50人以上の著者によって書かれている)。

ところで「アイドルマニアの最終形態」として紹介されている「ダメなひと」というのがあって、曰く「もっとも行き着いてしまった人たち」であり、「イベントでアイドルの本名や実年齢を叫んだり(中略)アイドルたちが隠したがっている過去を掘り起こし、本人にぶつけることでリアクションを楽しむなど、実に愛のない行動を好む」とのことで、先述の声優ブームの項と合わせて読むと、日頃Twitterやらなんやらで見かける連中のことを指しているとしか思えない、というかそのものだなぁ、あいつら16年前から生き延びてるんだなぁ、としみじみしてしまい、おれたち16年前とくらべて進んでるのか戻ってんのか足踏みしてるだけなのか、よく分かんねぇな、と思う。

おれたちが今夢中になってる「オルタカルチャー」も、大半はあと10年も経たないうちに廃れるだろうし、生き残ったいくつかは、少しずつ形を変えて生き延びていくんだろう。インターネットだって、100年後には全く別のものになってるだろうけど、「ダメなひと」みたいなのは絶対いるだろうしね。そんないいかげんでもろくて、案外しぶといもんなんだろう、おれたちは。