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まだ夏じゃない

「終わる」ことを定められた物語 Breaking Bad(ブレイキング・バッド)

ひょんなことから知ったブレイキング・バッドという海外ドラマのことが気になって、DVDでも借りてこようかと思ったけれど、調べてみたらhuluでオンライン配信してるじゃん、しかも2週間無料じゃん、ちょっと見てみるか、と思ったのが運の尽きというか、それからというものの最近ほとんど読めていなかったラノベを全く読まなくなり、アニメは溜まっていく一方で、それでもすっかりその魅力に取り憑かれてしまって先日全シーズン62話を見終えた。ちなみに無料期間終了には間に合わなかった。というかこれは月額1000円払ってお釣りがくる内容だぞ、と。

というわけでなるべくネタバレなしでBreaking Badの話をする。ぶっちゃけググればいくらでも感想とかが拾えるので俺が改めてその魅力を語る意味もないのだが、そんなこと言ったらここまで書いたことが無駄になってなんかもったいないので軽くその内容について話す。

 

Breaking Badは2008年からスタートした全5シーズン62話の海外ドラマ。あれっすよ、殺しても死なない小山力也さんが主人公の24みたいなやつ(と言っても俺海外ドラマって見たことないからよう知らんのだけれど)。いや内容は全然違うんだけど。

あらすじとしては高校の化学教師であるウォルターホワイトさん、これがまた冴えない男でしてね、学校では生徒に舐められてるし、稼ぎも少ないから洗車場でバイトしてどうにか嫁さんのスカイラーさんと脳性マヒを患った息子のジュニアを養っているという状態でね。つつましいというか、まあ苦労しとるわけです。そんなときにどうにも具合悪いなあと病院行ったらあんたガンだわ、あと2年くらいで死ぬわなんて言われちまうわけです。青天の霹靂とでもいうのかね、ささやかに暮らしていたらこの仕打ちなわけです。

で、ご存知のように海外の医療費ってバカ高いから、じゃあガン治療しますわ、とはなかなか言えないわけで。ただでさえ貧窮しとるわけだしね。で、ホワイトさんがどうしようとしたかというと、治療費なんて捻出できるはずないし、でもそれだと自分は死んでしまう、それならせめて家族が不自由しないだけの金を稼がなければ、と家族に必要であろう額を事細かく計算して(確か70万ドルとかそれくらいだったかな?)よっしゃやるでと一念発起するわけ。でも一体どうやって稼ぐというのかというと、ドラッグ作ろうと。

先述の通りホワイトさんは冴えない男ではあるけれど、化学の知識はたいへん豊富だし頭もよい。そんで学校から器材をこっそりパクったりしてメタンフェタミンことメス、日本ではシャブとかSとかヒロポンとか言われるドラッグを作るわけですよ。なんか向こうでは特定の風邪薬をどうこうして作っちゃう人がいるらしいんだけど、その品質はよろしくない。でもホワイトさんはその知識から超高純度のメス、具体的には純度99%というとんでもないメスを作っちゃうのよ。ちなみにホワイトさんのメスは独自のこだわりからか透明ではなくクリアブルーの結晶となっているので、ブルーメスと呼称される。99パーってそんなことできるんかいなと思うしできるとは思えんのだけれど、まあそこはドラマですからね、ホワイトさんすごいわーと多目に見ましょう。

で、ドラッグができたワーオ、これで億万長者や! となるかというと、もちろんならん。作ったとしてもそれをさばく方法、販路がないから。さてどうしようと考えたホワイトさんが目をつけたのが、かつての教え子であるジェシー・ピンクマンさん。これがまあもう見るからにアホそうな青年でしてねぇ。彼もまたDIYメスを売ったりしてたんだけど品質は当然悪く、しかもそれをごまかすためかチリとか入れちゃってる。そんなジェシーとホワイトさんは「ビジネス」としてのパートナーとなって、数々の危険と対面しつつブルーメスを売ってせっせと金を稼ぎだすわけ。最初は死ぬつもりだったホワイトさんも、ガンと戦うことを選んだりするわけ。

 

ただホワイトさん、こんなリスキーなことしてるけど、嫁さんの妹である旦那であるハンクがDEA、麻薬取締局の人間なのよ。このハンク、見た目はゴリラみてえなおっさんなんだけど、まあとにかく仕事熱心でしてね。ドラッグのこととなるとメッチャ頑張るわけ。ホワイトさん一家とハンク一家は家族ぐるみの付き合いをしていて、ブルーメスってのが最近出回りはじめてるんだよ、って話をされるんだけど「それを作っているのは私だ。家族のためなんだ」とは当然言えんし、そのせいでホワイトさんは長きに渡ってヒヤヒヤすることになるのだけれど、ホワイトさんはホワイトさんでメッチャ頭いいから、そういうピンチを頭振り絞って切り抜けていくんだよ。このへんの切り抜け方というのも見どころのひとつだと思う。

 

向こうではホワイトさんのようにダブルワークをしないと生活していけない人が多いようで、その疲労をごまかすためにメスを使うということが実際にあるそうでして。そういう意味でも向こうでは「実際には起こらない現実」とでもいうのかな、そういうある種のリアリティをもって絶賛されてるようで。

ただ何が魅力かというと、当たり前のことだけれどシナリオが素晴らしいのよ。張り巡らされた伏線が思わぬタイミングで回収されるし、飽きる瞬間というか隙がない。ラストに繋がるシーンが予想だにしないタイミングで差し込まれたりする。それと海外の人気シリーズでありがちらしい、延々と新シリーズが展開されるということもない。今調べたら24はシーズン8とかお前ジャンプのマンガみてぇだなと思うけど、Breaking Badはきっちり5シーズンで完結する。プロデューサーだったか誰かがシーズン3あたりで「これ5シーズンで完結すっから」と言っていたようで、事実そのとおりになった(ただ登場人物のなかでもかなりクセのある人物を主人公としたスピンオフは制作されるようだ)。

 

登場人物といえばあれさ、捨てキャラとは言わんが、シナリオ上「こいつ別にいらなくね?」という奴がひとりもいないのも素晴らしい。ホワイトさんは当然としてもろくでなしのジェシーも、嫁さんのスカイラーもハンクの嫁さん(名前忘れた)も、それぞれにホワイトさんの所業によってその運命は大きく動いていく。そして大きく変わっていく。

 

タイトルであるBreaking Badの意味は「道を踏み外す」「(悪い方に)変わっていく」という意味合いで(文法的にはto Breaking Badらしいが)、その意味の通りホワイトさんたちの平穏な生活は徐々に破綻していく。特にシリーズ後半のホワイトさんのBreaking Badっぷりは恐ろしくもある。ドラッグに関わっているし末期ガンを患っているからホワイトさんの死は揺るぎない。途中で何人もの人が死んでしまう。最初からハッピーエンドはありえない。

それでもホワイトさんの情けなく、クールで、恐ろしくもあるその生き様に、俺は幾度と無く震えた。最終話での告白は、ホワイトさんのそれまでの所業を目の当たりしてきた俺の心臓を深く突き刺した。そしてジェシーの変化? 成長? その姿もまたしっかりとした傷跡を残す。ホワイトさんとジェシー、ふたりはパートナーであり、友人であり、敵同士であり、そして……なんだろう……? それは俺にはうまく言うことができない。

 

素晴らしいシナリオと魅力的な登場人物。こんな宣伝文句は聞き飽きたという人は多いと思う。それでもこのBreaking Badは見て損はない。アニメや日本のドラマに比べると、その話数に腰が引けるかもしれない。そして繰り返しになるがハッピーエンドはありえない。それでもこの物語の壮絶な終焉を見届ける価値は十二分にあると俺は思う。

もし1時間弱の暇があるなら、そして気が向いたなら、公式サイトで第一話が観られるようになっているので、それを見るといい。続きが気になったら、俺のようにhuluの2週間無料トライアルを申し込むとかDVD借りてくるとかしましょう。しろ。