豆腐

まだ夏じゃない

月刊豆腐2014年12月号より

あわてんぼうのサンタクロースクリスマスまえにやってきた」とため息を漏らすのは都内に住むIさん(仮名)。顔見知りの近所の住人から「誰かが家に押し入ろうとしている」と電話があり、窓から外を確認したところ、トナカイ数頭とサンタクロースがIさんの庭に忍び込んでいるのを発見、通報した。「こちらとしてはクリスマスを前提に準備してますから本当に困りました」、Iさんは疲れ果てたといった顔でそう呟いた。警察での取り調べではサンタクロースの不法侵入について厳しく追求されたが、時節柄ということもあり、今回は厳重注意処分を受け釈放された。しかしその後本誌は取材を続け、サンタクロース業界が抱える闇が明らかになってきた。昨今の子供が望むプレゼントのほとんどはスマートフォンやテレビゲームといった精密機械であり、木製のおもちゃ製造を得意とする昔ながらのサンタクロースたちにはプレゼントの製造自体が実質的に不可能な状態となっている。そのためオフシーズンの間、サンタクロースたちは派遣社員として長時間労働を余儀なくされ、実費でプレゼントの購入を行っている。また派遣会社や派遣先次第では適切な給与の支払いが行われず訴訟に発展するケース、サンタクロースたちの高齢化による健康不安、またトナカイ不足による過酷な運送スケジュールによる事故の多発など、数々の問題点が浮き彫りになっている。「このところサンタクロースの様子がおかしかった」と今回の事件について語るのはトナカイのSさん(仮名)。「私たちトナカイもそうですが、サンタクロースたちも既に限界を迎えています。彼はこの数日間、心ここにあらずといった状態でした。クリスマス前に出発しようとした彼を私たちも必死に止めたのですが……子どもたちの喜ぶ顔が見たくて始めたことですが、もうこの業界の歪みを正すことは難しいでしょう」。Sさん自身も過密なスケジュールのためここ数年で体調を崩し、また家族と別居することになったという。Sさんは鼻を赤く腫らしてうなだれた。本誌は今回の事件についてサンタクロース協会に質問状を送ったが、現時点で返答はない。問題の根は深い。

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