豆腐

まだ夏じゃない

Twitter警察24時

このTwitter課に配属されて5年というAさん(仮名)は今日もタイムラインの監視という厳しい業務に従事している。今回は業務の最中に無理を言って取材をさせて頂いた。

「楽かと言われると楽ではありませんね(笑)。Twitterというサービスのシステム上、365日24時間休みがないようなものですから」
そう言いつつもAさんの表情は明るい。これがプロ意識というものだろうか。と、その時AさんのTwitterクライアントが通知を知らせる。
「ああ、これはクソリプマンの一種ですね」
ークソリプマン?
「ええ、たとえば今回のリプライを見てみましょうか。私のツイートを引用した形、いわゆる非公式リツイートに自分の意見を付加しています」
ーこの「RT」という文字列の前にある「wwww」という部分がこのユーザの意見ということでしょうか
「はい」
ー何か意味はあるのでしょうか?
「いえ、特に意味はないでしょう。単に面白いと思った。あるいは馬鹿にしているつもりなのでしょう。または彼は自分のフォロワーに私のツイートを読ませたかったのかもしれません」
ーなるほど……ああ、彼のフォロワーらしき人物が更に非公式リツイートでコメントしてきましたね。
「そうですね。メンション通知がうっとうしい上にコメントの返しようがないので無害とはいえませんが、クソリプマンの中ではまだマシな方ですね」
ーというと?
「そうですね……たとえばこれですかね」
ー「『フォロー外から失礼します。それは◯◯だから〜』」……これは?
「フォロー外から失礼マンですね」
ーそのままですね。
「ええ、そのままです。別にフォローをしていようがいまいがTwitterのシステム上は何の問題もない行為です。しかし日本人特有の奥ゆかしさとでも言うのか、彼らはこのように前置きをしないと相手に失礼だと思っているのです。悪いことではありませんが、彼らはなぜかこのように自分ルールを構築し、それを相手にも求める事が多いですね」
ー奥ゆかしさ……なるほど。
「そして今回のこの人物の場合、議論もどきマンである可能性もありますね」
ー議論もどきマン?
「ええ、私のツイートになにか思うことがあったのでしょう、彼は持論を展開しています。一見議論しようとしているように思えますが、しかしその実、彼は議論ではなく自分の意見こそが正しいと私に認めさせたいだけなのです」
ーそれは一体……
「そうですね、ちょっと実演してみましょうか。『△△だからお前の言ってることは机上の空論。現実見ろ。あといちいち非公式RTすんな』……と」
ーおっ、さっそく反応がありましたね。
「『逃げるんですか(笑)さすが△△信者ですね(笑)』だそうです(苦笑)。既に私に論破されていることには触れず私が逃げたことにして、さらにはレッテル貼りして終わり。テンプレどおりの反応です」
ー議論を勝ち負けと勘違いしているのでしょうか
「おそらく当人は自分が勘違いしている事にも気づいていないでしょう。それとこの『笑』ですが……」
ーたびたび見かける表現ですが……
「ええ、この場合は私を嘲笑しているという意味でしょう。表現の意味自体は重要ではありません。注目してもらいたいのはそのような感情表現に『笑』を使用しているという事です」
ーというと?
「このようにカッコ付きで態度を表現する手法は古くから行われています。逆に言えばこのように表現するということは、この人物が古くからのネットユーザであるか、あるいはネットに触れたのがここ最近である、インターネット慣れしていない人物だと推測できます。要するにネットユーザとしては高齢、または逆に幼いということです」
ー染み付いた習慣となっているか、もしくは最初に動いたものを親と認識する鳥の刷り込みのように、ネットに触れたときの初期体験を真似していると。
「そういうことですね」
ー確かに『(藁)』や『ワラ』などは見かけなくなって久しいですね。
「(核爆)なんかもそうですね。これは私見ですが、中堅からベテランのインディーズバンドのアカウントはこのような表現を多用している気がします」
ーああ、それすげえわかるわ。わざとなのかもしれんけど、嬉々として使ってるのかもとか思うと見ててこっちが照れるもん。
「……ええと、ところでこのユーザですが、何か気づきませんか?」
ーああ、失礼しました。そうですね……ああ、RTしかしていませんね
「RTしかしないマンです」
ーさっきからネーミング適当じゃないですか?
「RTしかしていないからRTしかしないマンです」
ー……ええと、これは何か目的があってのことなんでしょうか
「ないです」
ーえっ
「ないんです」
ーないんですか?
「もしかしたら俗に言うシェアというものかもしれませんが、結局ボタンを押すだけですからね。何もしていないのと同じです」
ー確かにRTだけされたところで本人はなにも言っていませんからね
「ええ。そしてこのRTされたツイートは自称某大学の教授です。この人物はRTしかしないマンであると同時に、無意識権威主義マンであると思われます」
ー無意識権威主義マン?
「はい、同じことを言うにしても、そのへんのクソみてえなアホが言うのと、知名度の高い人物が言うのでは影響力が違うでしょう?」
ーあー
「この人のことが好きだからこの意見は正しい、そしてそれを支持する自分もまた正しいし新しいしエラい。そう思い込んでいるのです。テメエみてえなド素人の思いつく事なんて専門家がとっくに検証とかしてあんま意味ねえなって結論出してることくらい調べりゃわかんだろクソが」
ーなにか嫌なことでもありましたか……?
「失礼、なんでもありません……ええと、そうですね、このRTしかしないマンと無意識権威主義マン、そしてソース未確認マンが複合する場合があるのですが、これはもう地獄ですね」
ーソース未確認マンというのはその名の通り一次情報の確認をしないという……
「はい、そうです。高名な人物がどう考えてもうさんくさい情報、つまりデマをRTすると、さきほどのような人物、いわば信者がこぞってさらにRTしますから、デマは爆発的に拡散します。そしてデマであると確認された場合はそれを黙殺します」
ーそれはなぜなんでしょうか
「謝ると死ぬ病だからです」
ーえっなにそれこわい
「謝ると死ぬんです」
ー謝ると死ぬ……
「正確な罹患者数は不明ですが、先述のデマの件を踏まえると相当数存在するでしょう」
ー恐ろしいですね
「はい、これははっきりと害悪であると言えますね」
ー死ねばいいのにね(笑)
「ほんとにね(笑)……ああいやなんでも……そうだ、これは最近増えてきたタイプのツイートです」
ーこれは……誰かのツイートのスクリーンショットに自分のコメントを添えていますね
「はい、非公式RTやメンションを投げると当然相手にメンション通知が届きますね」
ーそうですね
「しかしこのように画像にすると通知は飛ばず、またエゴサにも引っかからず、安全圏から相手を一方的に殴りつけることができるのです」
ーなるほど、しかし画像だと加工が可能ですし、発言の信ぴょう性に乏しいのでは?
「いいんですよ別に。そういう奴のフォロワーなんてどうせ元発言なんて確認しないし、とにかく自分は殴られずに自分が殴ることができればそれで満足なんですから」
ーろくでもないっすね
「ネットってもう暇つぶしの道具になってますからね。楽しければいいというのは分かります。端から見てそれが見苦しいと色々と思う所はありますけれど……おっと、ちょっと失礼」
ーなにかあったんですか?
ネトウヨブサヨヘイトスピーチを飯の種にした連中、オタク叩きとオタク、パクツイとパクツイ改変によるネタロンダリングが同時に発生していますね……」
ーそれは一大事ですね。これから各種対応を?
「ええ、忙しくなります。すみません、取材はこのへんで……」
ーはい、本日はありがとうございました。読者の皆さんに何かあればぜひ
「そうですね……今日お話させて頂いた各種マンの他にも、Twitterにはガンと言って差し支えないユーザが無数に存在します。しかしながらTwitterはコミュニケーションツールです。用量用法を正しく守り、気楽に楽しみましょう。こちらこそありがとうございました」


こうしてAさん(仮名)への取材は終わった。現場を後にする時、Aさんは最後に発生した炎上に関わるユーザを片っ端から煽り、晒しあげ、少しでも形勢が不利になったと判断するとr4sを連続でキメていた。厳しい仕事だ。「取材おわりー。A必死すぎwwwwwwwww」、私はiPhoneでそうツイートし、TLを眺める。と、ひとりのフォロワーがAmazonのほしい物リストを掲示し必死に誕生日アッピールをしている。先ほどまでの殺伐とした空気から解放されたこともあり、思わず私は微笑んだ。このようにその時折に様々な姿を見せるのもTwitterの魅力のひとつだ。「クソ乞食wwwwwwwwwwwww」、非公式リツイートをキメて即ブロックした私は穏やかな気持ちでTwitter課をあとにした。