豆腐

まだ夏じゃない

俺と母とインターネットと

母にインターネットについて説明しようと思った経緯

北の地の果てにある実家でMacをさわっていたら、あらゆる機械操作を不得手とし携帯電話はかろうじて使えるがメールは全部来日半年の外国人並の誤変換とひらがなで構成されている母が「それがあれかい、タブレットだかインターネットってやつかい。ようこばちゃん(※ようこ+おばちゃん。母の姉のこと)も最近ずっとやってていろいろ買ったりしてるみたいだけど目が疲れて(中略)、苗買おうと思って私もこの前電話したっけ、インターネットあるかいって聞かれてさ、メールで送ってくれって言われたけど、住所とか漏れるから教えたくないから(以下略)」というように、真面目に聞いていると非常に不安になるレベルの文脈でインターネットを利用して買い物をしたい、というようなことを言われ、この際だからごくごく簡単にイメージを掴んでもらおうと思った為。

母の基本情報

・先述の通り重度の機械音痴
・携帯電話を携帯しない
・テレビは使える
・インターネットへの興味はあるらしい
・しかしインターネットがなんなのかは分かっていない
・分かっていないが危険なものだと思っている
 ※恐らく一時期テレビでさかんにワンクリック詐欺について報道されたせい
・インターネットでは相手が何者であろうとこちらが教えた個人情報を絶対漏洩させて危ないと思っている
 ※これも恐らくテレビのせい。しかし何がどう危ないのかは理解していない
・上記の漏洩が怖いので契約変更等で書類を書くのが嫌だから、電池パックが膨張して危険な状態の古い携帯電話を使い続けている
・同じことを何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し問うてくる
・Aという話をする→途中でBが出てくるとAは捨ておいてシームレスにBの話になる→Bの話からCを連想した場合それまでの文脈をすべて忘れ最初からCの話をしていたように語り出す、というように思いついた事を思いついた順番に話し続けるので、都度返答しようとすると全部的外れになって混乱する。シュタインズゲートファンの方は、母が話している間は絶え間無く世界線が変化していて、ずっとリーディングシュタイナーが発動しているような感じと思っていただければ分かりやすい(分かりにくい)

俺の対策案など

タブレットと混合している、またこれまでの数々の言動から、母はインターネットというものを形ある何かであると思っている可能性がある。インターネットはあくまで「仕組み」であり、我々は普段「インターネットをする」等と言うが、それはインターネットという仕組みを利用してニュースを読んだりビデオを見たり、あるいは買い物をしたりしているのだと教えることが必要
・横文字は一切理解できないものと決めつけ、元々インターネットとは云々のような、知っていようがいまいが利用には差し支えない情報については極力触れずに説明したい
・今回母は花の苗を購入したいとのことだったので実際に適当なサイトを見せつつ、インターネットにはこのようにさまざまなホームページ(サイトと呼んだほうが適切だろうが、ホームページという言葉自体は聞いたことがあるようなので、ホームページという言い方をすることにした)が存在することを知ってもらう
・以前、細けえことを一切合切無視して俺がインターネットとはなんぞや? と説明するとしたら「世界中の人が自由に好きなことを書けるし読むこともできて、文字だけではなく写真やビデオなども載せることができる、すごく大きな一冊の本のようなもの」といった感じでは、とわりと真剣に考えたことがあったので、今回もその線で行きたい
・ちょうど目の前に新聞があったので、本を新聞に置き換えてもよいかもしれん
・まずYoutubeで母が通学に使っていた今は廃線となっている路線の様子や、動物や植物のビデオを見せたり、ストリートビューでうちの周りなんかを見せて興味を持たせる

実践

「インターネットっていうのはモノじゃなくて仕組みのことでさ、(新聞を開いて)ほら、新聞だとこんなふうにニュースが載ってたり、こんなふうに広告が出てたりするでしょ。インターネットはこういうニュースや広告とか写真とかを世界中の人が自由に載せたりできる新聞みたいなもんなのさ」
「あーー(絶対分かってない)……じゃあ書いてここ(ディスプレイを指さしつつ)に載せるとしたらお金かかるのかい」
「えーと(そうきたか……)、いや、必ずしもそうじゃないけど」
「今これ(macを指さしつつ)もお金かかってるのかい」
「まあそれはかかってるさ」
「いくらくらいさ」
「インターネットに?」
「そう」
「安いところだと3000円後半からあるかな。俺は4000円くらいのやつ契約してる」
「それだけかい?」
「それが毎月ね」
「毎月4000円か……それでお金どれくらいかかるのさ」
「いやだから4000円だって」
「それ以上かからないのかい」
「だからそれが毎月だって今言ったべさ。今は大体定額制だから4000円ならそれ以上かからんの」
「それ以上かからんのかい。ふーん。今これ(mac)使ってるけど、その月に払うお金以上はかからんのかい」
「だからかからんっつったべや……(介護疲れという言葉が脳裏に浮かぶ)」
「ふーん(なにかしら納得はした模様)……追加でお金はかからんのかい」
「(諦めと絶望)」

結果

ようつべやストリートビューはわりと好評で楽しんでいた。インターネットで買い物ができるということも理解はした様子。だがインターネットがどういうものなのかは絶対に理解していない。あとなんであんなに繰り返し利用料金について聞いてきたのかさっぱりだったのだが、電話料金のようにインターネットも基本料金があって、さらにそこに利用料金がかかるものだと思っていたのでは? と今はそのように推測しているが、それにしたってあんなに何度も聞かれるとどうしたってイラつく。あと下手に新聞という物理的なものにたとえたせいで余計な混乱を招いた気がする。あとデータという形のないものの存在というか概念自体が理解できていないのだと思う。あと無駄に危険だと煽るテレビの有害さと、それを無条件に信じる年寄りのテレビに対する信頼感ハンパない。

結局どないせえいうねん

ドントシンクフィール。習うより慣れよ。特に俺の母のように真正面からぶつかるとこちらだけが0フレーム確反もらうような相手の場合、町田町蔵のようにええ加減にせんと気い狂て死ぬと絶叫したくなるので、とにかく相手がどうしたいのか聞いて、適切なサイトを表示しさっさと用事を済ませてしまったほうが、インターネットって便利だね、で話が終わるので余計な疲労を負わなくていいぜ。
俺はとにかく途中でこころが折れたので、母がほしいといっていた花を扱っているがユーザビリティというものをほとんど無視した作りのサイトでお目当ての花の苗のセール品(全400品)をひとつずつ見せて、これは欲しい、はい、これはいらないわ、はい、これいいわ、さっきのと同じ色だべさ、そうだったべか? というやりとりを4時間ばかりかけて行い、本日はりんごの苗木などをこれまた5時間ほどかけてじっっっっっっっっっくり検討し注文を代行した。母は「珍しい種類も探せるし、安いのもあるから、なかなかいいわ」とのことだが「でも目が疲れてかなわんわ」とも言っていた。だが誰よりも疲れたのは俺だ。俺なんだ。