豆腐

まだ夏じゃない

たのしい立ち退きのおもいで

※追記 

「そういや税金とかどうなんだべ?」と思ってちょっとググってみたら、立ち退き料から引っ越しにかかった費用(契約料とか)を除いた額が50万を超えなければ特別控除扱いになるみたいだ。50万を超えた分は課税対象となるようなので、そういう場合はちゃんと申告しましょう。

 

 

非常に長いので、最初に要点をまとめておく

 

・貸主都合(つまり大家の都合)による立ち退きは、最低でも6ヶ月前に行わなければならない

・大家の親族が入居するなど、特定の理由による立ち退き要求は、貸主都合とならない

(ただし老朽化のためという場合は、今住んでるのがすでに難しい、あるいは危険である場合でないと、よほどのことがない限り認められない)

・貸主都合による立ち退き要求を受けた場合、借り主は立退き料の請求は行っても良い

 ※ただし立退き料に法的な決まりはない

・一般的な立退き料の相場は、迷惑料(家賃の6ヶ月分)+α(新居の初期費用や引越代、家財の処分・買い替え費用など。要するに、立ち退きにあたり発生するもろもろの金額全部。借り主の金の持ち出しが発生しない金額)

 ※店舗などで移動のために収入が減るなどの場合は、そういうのも含める

・会話は必ず録音しておく

・立退き料について折り合いが合わないなら、家賃を払って、そのまま住み続けてよい(居住権マジ強い)

 

 


 

「申し訳ないんですけど、イシガキさんの住んでいるフロアを老人向けのグループホームにしようと思っているんですよー」

「え、そうすか……えっと、おれはどうしたらいいんですかね」

「まだ詳しいことは決まってないんですけど、工事をするので下か上の階に移っていただくことになると思います」

「あーそうっすか……えっと、それはいつごろ移動すればいいんですかね」

「こちらもさっき決まったばかりの話でして詳しくはまだ分からないんですけど、3月の8日くらいまでに部屋は出られそうですか?」

「8日!? ……えっと、さすがにあと2週間もないっていうのは厳しいですねぇ」

「やっぱりそうですよねぇ〜」

「ええ、ちょっとそれは……ああ、おれが移る先の部屋というのは、どこになるんですかね?」

「ちょっとまだ分からないんですけど、一週間後くらいには。ああ、部屋はそのままで結構ですので」

「そのまま?」

「掃除とか」

「ああ、なるほど……いやしかし引越しするにしても荷物をどうやって運べば」

「軽い物はご自分で運んでいただいて、重いものはこちらでお手伝いしますので」

「ああ、そうですか……うーん」

「移動していただけます?」

「えーと、うーん、まあ(話が決まってるなら動くしかないじゃん)」

「ああそうですか! ありがとうございます!」

「あ、家賃はどうなるんですか? 上の階なら高くなるんじゃ……」

「家賃は今のままで大丈夫ですので! あとクリーニング代なんかも不要ですので!」

「そうですか……まあとにかく、移動先が決まったらすぐに教えて下さい」

「ええ、一週間後くらいにはお伝えできると思いますので」

 

というのが2月末、今回の立ち退き騒動の発端である。今思えばこの時点でおかしなことばかりなのだが、このときは「話が決まっちゃってんだから、どうしようもねえよな。まあ家賃変わらないし、荷物運びも手伝ってくれるみたいだし」などと呑気なことを思っていた。

しかし、カクカクシカジカで部屋を移動することになったとTwitterにpostしたところ「それ、貸主都合の立ち退きじゃね? 立退き料請求できるべ」という指摘を頂いた。

一応移動先の部屋はあるし、家賃も変わらないのだけれど、今回のケースは立ち退きにあたるのだろうか? と疑問に思ったのだが「イシガキは今の部屋についての賃貸契約を結んでいるわけで、それを貸主の都合で変えられるのだから、やっぱ立ち退きだべ」と、また冷静なご指摘を頂き、ああ確かにそうだな、部屋を移ったらそれで終わりじゃないもんな。住所変更とかしなきゃならんもんな。

と、思い直し、立退き料についてぐぐってみると、立退き料には法的な決まりがあるわけではないし、これ! といった相場があるわけでもないけれど、こういう貸主都合の場合の迷惑料としては、だいたい家賃の6ヶ月分くらいは認められるらしい。

で、通常の立ち退きであれば別の物件に移ることになるので、その新居の初期費用や引っ越しにかかる費用(引っ越し代やらなんやら)も請求できる。要するに、借り主のお金の持ち出しがゼロになるような金額であるらしい。

ただし、大家の親族が住むから出て行ってくれとか、そういうのは、貸主都合の立ち退き要求にはあたらないとか、例外はあるらしい。しかし今回はそういった例外ちゃんにはあたらないのは明白ちゃんだよな。なら請求できんじゃね?

というわけで、後日(たしか最初の電話から2日後、3月直前)大家に電話をかけた。ちなみにこの時から、通話内容を録音できるように、iPhoneIP電話アプリを使うようになっている。

 

「もしもし◯◯の◯◯号室のイシガキです」

「ああどうもお世話になってます。ああそうだ、イシガキさん、頂いた電話で恐縮なんですけどね」

「はい?」

「部屋の移動なんですけど、3月いっぱいということになりましたので」

「ああそうですか、助かります。で、今回の部屋の移動のことなんですけど」

「? はい、なんでしょう?」

「カクカクシカジカで、これって貸主都合の立ち退きにあたると思うんですけど、立退き料が発生するんじゃないですかね?」

「え、いや、でも部屋の移動には応じて頂けると……」

「いやそれは関係ないでしょう。だっておれが契約してるのは今の◯◯号室で、そこから移動するんだから、これは事実上立ち退きになるんじゃないですか?」

「ああ〜……」

「それで立ち退き料とかの相談をしたいんですけど」

「え〜と、ああ。はい、そうですね、はい。ええと、まだ詳しい話が決まってないので……」

「だから話し合いをしたいんですけど、どうしましょう?」

「あの、普段うちには社長いないんですよ(※余市で温泉やってる)。それで、一週間くらい後になれば、もっと具体的なことがわかると思うので……」

「……それじゃ、来週に、この前言ってた部屋の話と、立退き料の話を」

「ええ、わかりました」

「ああ、あとですね」

「はい?」

「できればですね、そちらで何か決まったら、すぐに連絡もらえます?」

「連絡?」

「ええ、そうじゃないとこちらも動けないところがあるので」

「ああはい、わかりました」

 

なんとももやもやした内容で、結局具体的な話はできなかったのだが、まあこの前も一週間待ってくれと言っていたし、仕方ないか。などと思いながらも、実質1ヶ月で引っ越し準備せにゃならんのか、マジめんどくせーなオイ。と、相変わらず呑気なイシガキ氏は、なんとかダンボール等の引っ越し用品を集めて、少しずつ荷物の片付けを始めたのであるが、3月上旬。

 

「もしもしイシガキです」

「ああはい、お世話になってます」

「あの、部屋のことはどうなりましたか?」

「いや、まだ詳しいことは……」

「まだなんですか?(なにこいつ、馬鹿にしてんのか? とさすがにイラつく)」

「ええ、すいません、それで」

「あと立退き料の相談なんですけど」

「ああ、あの、社長がですね、今週の木曜と金曜にこちらに来るんですよ。その時においで頂けます?」

「(なんでおれがそっち行かねばならんのだ?)……ああそうですか、それなら、ええと……金曜に」

「はい、それでは金曜日に、こちらの事務所までお越しください」

「……よろしくお願いします」

 

どこか釈然としないながらも、これでようやっと具体的な話ができるか、と胸を撫で下ろしたのが3月の、確か二週目。さっさと話つけて、新しい部屋に移ってしまいたいな、なんて思っていたのだが、上記の電話のものの数十分後。

 

「あ、もしもしイシガキさんでしょうか?」

「ああはい」

「あのですね、さっきの話し合いのことなんですけど、社長の都合が悪くなりまして、ええ」

「は? それじゃいつなら大丈夫なんですか?」

「そうですねぇ……一週間後には……」

「(またかよ……)」

「どうでしょう……?」

「いや、まあ仕方ないですけど……とにかくですね、何か決まったのなら、必ずすぐに連絡くださいよ」

「ええ、ええ、もちろん」

 

というわけで、立退き料のことはおろか、部屋のこともろくに決まらぬまま、再び一週間後には、という、すでにお決まりの文句でお茶を濁されてしまった。これはちょっとさすがにおかしくねーか? と、馬鹿なおれでも、やっと気付き始める。しかし部屋の移動というのは決まっているから荷造りだけはしておかねばならないので、年度末のクッソ忙しい時期に、おれは食器とか服とか服とか楽器類とか、あと本とか本とか本とか本をちまちまと段ボールに詰めながら、翌週を待った。今思えば、あまりに殊勝で誠実な自分の行動に涙が出る。

 

ただ、こうも逃げ回られると、ひょっとしたらこれ、立退き料支払わないつもりじゃねえか? ていうかそもそも立退き料取れるのか? 取っていいのか? と多少弱気になってくるもので、なにか法律的にどうにかできないものか、と調べたら、札幌市でも無料の弁護士相談というものをやっていることを知り、即予約(ちなみに相談内容で曜日がかわるようなので、事前にしっかりサイトを確認しましょう)。で、札幌弁護士会の行っている無料相談を利用したのだが。

 

以前同サービスを利用した後輩いわく「あいつら超やる気ナイっすよ」とのことで、まあ無料だしそういうもんだろうと分かっていたつもりではあったが、大家にこういうことを言われてこういうことになってるんだけど、これ立退き料請求できるんですかね? と弁護士たち(ベテランっぽいおっさんと、見た目若いメガネの兄ちゃんというツーマンセル)に聞いてみたら

「立退き料と呼ばれるものに法的な決まりはないんですが〜(以下、知ってる話)」

うん知ってる。

「請求はしたんですか?」

いやだから、それをしてもいいのかお尋ねしたいんすけど。

「請求するのは自由です」

ああ、そうっすかー。ていうか、今請求しようとしてるんですけど、取り合おうとしないんすけど。

「法的な決まりはないので」

知ってる。知ってるよ。

と、非常に参考になるご意見をいただき、せめて相談者の前で腕組みしてふんぞり返るのやめたらどうすかね、と思いながら、相談所をあとにしたのであった。ありがとう札幌弁護士会! ファック! シット!

 

というわけで、わかったのは、立退き料の請求自体はしてもよい、ということだけ。そして前の電話から一週間後、つまり3月の二週目になっても、大家からの連絡は、相変わらず来やしねぇ。しかし準備はせんとあかんし、もし立退き料もらっても、もうこの大家と関わりたくねぇなあ、もう別のところに引っ越すか……?

と思ったがしかし3月、しかも中旬にさしかかった時期であるから、よさげなところはすでに埋まっていることが明白。しかしおれも人の子であるため、雨風をしのげる場所がなければ眠れないし、あるいは風をこじらせて永遠の眠りにつくかもしれないため、なによりクソ大家との関わりを絶ちたいという気持ちがパンパンに膨れ上がったため、片っ端から不動産屋をめぐることとなった。

どこに引っ越すか迷ったが、ほかの地域がどういう感じなのか調べる時間も惜しく、結局今と同じ豊平区内で探すことにしてはみたのだが、webの物件情報だと どうしても詳細が分からないので、近所にある不動産屋をめぐることにしたのだが、最初に行ったJから始まる名前の某有名不動産屋は、これこれこういう理由 で物件を探しているのですが、と相談すると「いやあ、どうですかねぇ〜立退き料取れますかねぇ〜?」と、どこに出しても恥ずかしくない「金にならなそうな 奴は適当にあしらおう!」というアトモスフィアを醸しだしていて、実際に内覧した物件も非常にオールド・スクールというかただオールドなものであり、とても楽しい経験をさせていただいた。ありがとうJ愚痴ATM学園前店さん!

時期が時期であれば、電柱なんかに間取りと費用と住所が書かれたチラシが貼ってあって、そういうところを見てみるのもアリなのだが、余裕がまったくないので、前述のJ口あTMのようなゴミであったら嫌だなと思いつつも結 局は大手不動産屋を頼ることにしたのだけれど、2件目の某有名不動産屋では、事情を話して、そういうわけなんすけど……と相談したら、常口アトムのようなこともなく、こちらの希望する条件に合致する物件をすべて挙げてくれたし、その中のひとつは掘り出し物といっていいような物件で、立退き料のことはどうな るかはわからないけど、手付金払えばギリギリまでおさえておけますよ! もし立退き料のことがダメでも、なんとかしましょう! と言ってもらえたので、部屋のことはなんとかなりそうだな、と。

 

というわけで新居はどうにかなりそうだが、やはり問題は立退き料。今回のような場合、立退き料はどれくらいまで請求してもいいんだべ? そういやネットで調べたら、上の階の部屋が、おれの部屋より5000円程度安く出てるけど、この差額は請求してもいいのかしら? この物件情報出してる不動産屋に問い合わせたら1年位前からこの値段らしいけど、ということは5000×12、いや5000×6くらいは上乗せしても……さすがにそれはがめついかしら? などと考えるも、とにかく話をせんことにはどうしようもないわけで、しょうがねぇからまたこちらから大家に電話をしたのであるが。

 

「イシガキですけど」

「ああはいお世話になって……」

「あのー部屋と立退き料の相談のことなんですけど」

「あーはい、あのですね、4月上旬にならないとちょっとまだ分からなくてですね……」

こんげつまつまでにいどうしなきゃならんのに、4がつにならないとわからない、とは??????

「ハァァァああああああ???」

「いえ、だから……」

「あなた言いましたよね? 3月一杯に移動してくれって。だからこっちはこの忙しい中準備して待ってたんですよ。今週になれば分かるってあなた方が言ったから!」

「あの……」

「それが何ですか? 3月になれば分かる、来週になればわかる、そしたら今度は来月にならんと分からないってどういう事ですか!? 今回の話は全部おたくらの都合ですよね!? なんで振り回されなきゃならんのですか??」

「いえ、あの……」

「もういいです。いいですか、部屋の移動はしません。今月末をもって退去します」

「アッハイ」

「ただしそれは立退き料が支払われた場合です。支払われなければ退去せず4月以降も住みます」

「アッハイ」

デイケアだかグループホームだか知らんけど、そちらの都合ですよね? こっちはそんなの知ったこっちゃないんですよ」

「アッハイ」

「請求書送りますから、必ず支払ってくださいね」

「アッハ」

「あとこれまでの会話は全部録音してますんで、嘘ついたらばれますからね」

「えっ」

 

というわけで怒髪天を衝く勢いで仕事をぶん投げ、具体的な金額は伏せるが、最初に挙げた立退き料の相場に加え、精神的苦痛の保障としてさらに家賃の数カ月分を上乗せし、引っ越しに伴い発生する家財の買い替え・処分にかかると思われた金額も増額、引っ越しであれば発生しないインターネット開通の初期費用などもぶち込んだ、当初の想定から比べるとニンニクマシマシな請求書をExcelでこしらえた。支払い期限は10日後くらい。

それからついでに内容証明も送りつけることにした。詳細はググってもらうとして、ざっくり言うと、これは面倒なフォーマットにしたがって記述した文章を、郵便局(でいいのかな)が、保証してくれるというもの。気をつけねばならんのは、保証してくれるのは、あくまで「こういう内容のことが書いてありましたよー」ということで、その内容の正当性などは保証してくれないし、内容証明でなにかを請求したとしても、法的な拘束力が発生するとか、そういうことはないようだ。ただ、ある種の行動をしたという証明にはなるので、裁判などになった場合には、意味のあるものになると思う。

おれは裁判も辞さない覚悟だったし(そうなりゃ工事は遅れるし、これまでの経緯からこちらに落ち度が一切ないことは明白。向こうが勝つことは99%ないという確信があった)、なにより怒りが有頂天で「てめーこっちが再三話しあおうぜっつってんのにヌルヌル逃げまわりやがっていい加減にしろよボケ」という旨をしっかり伝えておきたくて念のために送ることにしただけであって、必須ではない。ただ、やっておいても損はないと思う。

 

で、請求書等を送りつけた翌週、例によって向こうからの連絡はなく、もううんざりを通り越して、虚無に近い感情でたのしいお電話。

「イシガキです。請求書送ったんですけど確認してくれましたよね?」

「アッハイ、確認しました。ハイ、あの、ご指定の口座に振り込みますので」

「そうですか」

「ただですね……」

「はい?」

「あの、請求書だと◯日が期限となっているんですが、申し訳ないんですけど、この翌日じゃだめですかね?」

「(一日程度どうにかしろや)必ず振り込んで頂けますよね?」

「ええ、ハイ。ただ、この精神的苦痛に対する保障っていうのありますよね?」

「ありますよ」

「この部分がちょっと、あのですねぇ……」

「ハイィ???」

「はい?(なぜか不満気)」

「あのね、これまでの一連の件って、こちらに何か落ち度ありますか?」

「……」

「全部そちらの都合ですよね?」

「……はい」

「こっちはこの忙しい時期に突然出て行かねえとならねーし新居だって探さなきゃなんないんすよ(もう探してるけど)。余計な事多すぎて仕事にも身が入らないんですよ!(いつもどおり)」

「はい……」

「なんどでも繰り返しますが、こちらに落ち度は一切ないと断言できます。すべてそちらの都合です。ですよね?」

「はい」

「それじゃ、よろしくお願いします」

 

ようやく首根っこ捕まえたと思ったらまだゴネよるで、燃やしたろうか? と明確な殺意の波動に目覚めかけたが、必ず払うという言質はとれたので、待つこと数日。神経症みたいにオンラインバンキングで残高を確認しまくり、まだか……殺すぞ……と繰り返しつぶやいていると、15時過ぎに、ようやく立退き料の入金が確認できた。金額はこちらの請求した全額。勝ったッ! 第三部完ッ! と喜ぶのはまだ早く、やることはまだある。まずは件の物件を正式に契約すべく書類にハンコを押しまくり初期費用を支払う。これで住む場所は確保。少しだけほっとした。

しかし問題は引越し業者探しである。物件と同じように時期が時期であり、いわゆる繁忙期に突入していて、けっこうな数の業者に見積依頼をしたが、まあこれが見事にどこも予約が一杯だったり、あるいは繁忙期価格で予算と折り合いがつかなかったり。なにしろ新規契約した物件に入れるようになるのは、月末ギリギリであり、そうなるとますます混みあうし、金もかかる。いやだってさー繁忙期だからってまさか通常の5倍とか7倍かかりますわーとか言われるとは思わないじゃないですか。ただその業者はこちらの想定していた予算を告げると「◯日の◯時以降なら◯万円(予算+2万くらい)でできます」とか仰られて、どういうマジックを使ったら、最初言ってた見積もりから10万円も値引きできるんですかねぇ……と信用ならず、丁寧にお断りして、二度とこの業者には連絡すまいと誓った。

大手はすでに無理っぽかったので、その後は市内、あるいは近郊の業者をあたってみたのだけれど、やはりどこも条件が折り合わない。これはもう当初の見積もりから足が出るのはしょうがないし、最悪5倍から7倍払うしかないのか……と諦めかけていたのだが。

「◯日にお願いしたいんですけど……(すでに諦めモード)」

「◯日ですか……大丈夫ですよ」

「えっ、そうですか。……ちなみにこれくらいの内容なんですけど(荷物のリストを読み上げて)、概算で構わないので、どれくらいかかりそうですかね? 他のところだと、どこも馬鹿みたいに高くて……」

「あー時期的にどうしても高くはなってしまうんですが……ちなみにご予算はどれくらいを想定されてました?」

「えーと、◯万円くらいなんですけど……(再び諦めモード)」

「◯万円……少々お待ち頂けますか?(よくある保留音が流れだす)」

「はい……(ああだめだなこりゃ)」

「もしもしおまたせしました。時間の指定はできませんが、◯円(予算より1万くらい安い)ならどうでしょうか?」

「えっ、いいんですか!?」

「はい、大丈夫ですよ!」

というわけで、なんとかギリギリ引越し業者が決まって、ようやくおれは新居への転居が確実なものになったのだった。

ちなみに安かろう悪かろうというが、この業者、資材の用意はもちろん、仕事もしっかりしていて、個人的にはものすごーーーーーくよいところであった。名前は言わないけど(リンクしないとは言ってない)。作業してくれた兄ちゃんたちは、おれのところが3件目とのことで疲労困憊のはずであったが、本とか本とか本といったクッソ重くておれでは二度と持ちあげられんぞこれどうすんの、と思っていた荷物もしっかりと丁寧に運んでくれたし(「重いッスこれ……(苦笑い)」とは言ってたが。ごめん)、リーダーである兄ちゃんとなんか意気投合してしまって、非常に安心して作業を任せられた。あまりにもサンキューの意が高まり、コンビニに走って、ジュースやらお茶やらレッドブルやらおにぎりやらを適当に買って渡したけど、その上でさらにサイトのメールフォームから「ユーたちはグレートねベリーサンキュー」と送るくらいにありがたい人たちであった。メルシーボークー。

そういえば退去の際、大家から電話がかかってきて、鍵どうしたらいいのよと聞いたら向こうは取りに行くと言いかけたが、顔を合わせたくないので郵送するわと言ったら、じゃあそのまま部屋に置いといてくれとのことで、そんじゃ置いとくわ、と電話を切ろうとしたら、なんか文句あるのか知らんが、向こうの社長が話をしたいと言っているという。

「なんですか? 立退き料について文句でもあるんですか」

「いやまあ、あの、聞いてくれるだけでいいので……」

「それ必要ですか?」

「はい……?(またなにか不満気)」

「もう話は終わってるでしょう。何度でも言いますけど、今回の件は全部そちらの都合ですよね?」

「……はい」

「それじゃ鍵は置いておきますので」

払うもん払ったあとになってゴチャゴチャ言い出すなら、こちらは最初から話しあおうぜっつってんだから、その時に話しておけばよかったのだ。アホか。

先述の兄ちゃんたちがあらかた荷物を運び出したあと、処分が間に合わなかった諸々(ヤニで汚れたきったねぇカーテン、ぶっ壊れた突っ張り棒など)の処遇について考えたが、面倒なのでそのまま放置することにした。だってもともと部屋はそのままでいいっつってたしね。録音もしとるし。というわけでそいつらはまるごと残して、切れなくなった包丁と一緒に部屋の鍵を並べておき、これまた捨て残った台所用洗剤を「誤って」部屋にぶち撒けて、そうしておれは、10年以上暮らした部屋をあとにした。狭いし汚い部屋ではあったけれど、長々と住んでいたから、実はちょっとだけ寂しかったのは秘密だぜ?

 

アホみたいに長くなったが、これが今回のイシガキVS要介護紙オムツうんこたれ脳みそ腐敗大家との、一ヶ月に渡る(ていうかたった一月かよ)戦いの顛末である。立ち退きなんてそうそう出くわさないだろうし、今回みたいに一ヶ月で出て行ってくれとはなかなか言われないと思うけど、もしそういう状況になったら、少しはここに記したことが役にたつかもしれないね。立退き料はさっさと請求する。向こうが逃げるならさっさと殴る(もちろん脅迫はダメよ)。引っ越し代は繁忙期価格を考慮する。動きがないならまた殴って、家賃だけは払ってそのまま住み続ける。居住権は強いよ。うん。

 

ちなみに、なにかまた言ってくるかと思って、保証人である親にも手回しして無視するように言っておいたが、今日に至るまで、大家からの連絡はない。社長は余市だかどっかの温泉施設を経営しているようだが、願わくは社長のとこの源泉だけ枯渇しますように。雨水でも飲んでろっつうの。

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